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【委員会のご紹介】
JPLSG Ph1ALL委員会は、フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病という特殊な型の白血病の治療開発をおこなっている委員会です。
1. フィラデルフィア染色体陽性急性リンパ性白血病(Ph+ALL)とは
フィラデルフィア染色体(Ph1)は、元々慢性骨髄性白血病(CML)でみつけられた染色体9番と22番の転座によって生じる染色体異常です。この染色体異常はbcr-ablキメラ遺伝子という遺伝子異常を生じ、このbcr-ablキメラ遺伝子によって正常白血球が白血病細胞化することがわかってきています。Ph1は、CMLだけではなく急性リンパ性白血病(ALL)の患者さんでも成人では20-30%、小児ではわずかに2-3%ですが認められます。日本でのPh+ALLの小児の発生数は年に15人前後と推定されます。Ph+ALLには、いくつかの臨床的特徴がありますが、一番の特徴は、小児のALLの治療成績が年々改善されてきておりタイプによっては5年生存率が90%以上になっている現在でも、寛解導入率は悪くないものの早期に再発し極めて予後が悪いということです。
2.Ph+ALLの治療に対するJPLSG Ph1ALL委員会の活動
私たちは、まず日本で過去にいくつかの治療グループで別個に行われたPh+ALLに対する治療の実態を調査しました。その結果、抗癌剤のみの治療では生存率は40%台とやはり予後は不良でありましたが、骨髄移植などの造血幹細胞移植(SCT)をおこなうと治療成績が向上することもわかりました。それらを踏まえて2004年から、Ph+ALLの小児全員に対し治療の早期にSCTを組み込むことで治療成績を向上させることを目的としたPh+ALL04研究を全国で統一しておこないました。またこの中で当時まだPh+ALLに保険適応のなかったbcr-ablキメラ遺伝子を選択的に阻害する分子標的薬のイマチニブ(商品名グリベック)を短期間使用し、この薬剤の有効性や安全性を検討しました。この治療研究の結果は5年生存率で80%近くであり予後の改善を果たしました。またイマチニブの安全性も確認できました。ただSCTには短期的、長期的な副作用が認められるため、小児ではできる限り避ける方向にあります。近年、イマチニブに加えさらに治療効果の高い分子標的薬のダサチニブ(商品名スプリセル)も開発され、海外ではすでのこれらの薬剤と抗癌剤治療を併用する治療試験が行われ、SCTに匹敵する治療効果があることが報告されています。私たちも来年からこれらの分子標的薬と抗癌剤治療を組み合わせることでSCTを極力回避し、かつ治療成績を向上させることを目的としたPh+ALL12研究を計画しています。
【業績】
1. Aricò M, Schrappe M, Hunger SP, Carroll WL, Conter V, Galimberti S,
Manabe A, Saha V, Baruchel A, Vettenranta K, Horibe K, Benoit Y, Pieters
R, Escherich G, Silverman LB, Pui CH, Valsecchi MG. Clinical Outcome of
Children With Newly Diagnosed Philadelphia Chromosome-Positive Acute Lymphoblastic
Leukemia Treated Between 1995 and 2005. J Clin Oncol 28:4755-4761, 2010
2. Manabe A, Kawasaki H, Chin M, Sato A M., Matsumoto K, Watanabe T, Kajiwara
M, Shimada H, Kato I, Kodama Y, Sato N, Kudo K, Kikuta A, Oda M, Watanabe
T,Saito M. A, Tsurusawa M, Horibe K. A Brief Use of Imatinib Immediately
Before Hematopoietic Stem Cell Transplantation (HSCT) in Children with
Philadelphia Chromosome-Positive Acute Lymphoblastic Leukemia (Ph+ALL).
Results of the Japanese Pediatric Leukemia/Lymphoma Study Group. ASH 2011;
#2554
3. 嶋晴子、嶋田博之.フィラデルフィア染色体陽性白血病.小児がん診療ハンドブック.医薬ジャーナル社.東京.2011. 356-365.
4. 嶋田博之.白血病治療におけるダサチニブのすべて.メディカルレビュー社.東京.66-68, 2011.
5. 真部淳.白血病の分子標的療法.小児科臨床63:27-33, 2010.
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